先の私のエントリ記事に対してあるメーリングリストの参加者から「名指しされなかったものの、池田香代子さんのメッセージを通じて、間接的に危惧する点に注意とご批判をくださったものと謹んで受け止めました」という真摯すぎるほどの返信がありました。以下は、その返信に対する私の返信です。その先の2つのエントリ記事を書いた私の心持ちの説明になっているのではないかと思います。これもエントリしておこうと思います。

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○○さん、ご返信ありがとうございます。

が、私の先日の投稿は個人の批判を意図したものではまったくありません。個人的にも反原発運動に関わっている私の友人、知人はたくさんいますし、その人びとと私は長年連帯して活動してきましたし、仲のよい友人同士としても長くかつ古いつきあいをいまも続けています。

その友人、知人たちを私は批判するつもりはまったくありません。

私が先のメールで指摘したかったのは、市民運動のサイドにも私としてしばしば見受けられる一個の人間をそのかけがえのない一個の人間としてそのまま評価するのではなく、有名であること=人間の内実であるかのように錯覚している市民運動内にある一種の有名人病の危険性についてです。

いわゆる革新勢力の人には有名だけが取り柄のタレント候補に一票を投じる「市民」なるものをあざ笑う傾向が強いように私には見受けられるのですが、その「革新勢力の人」が実はおのれこそが重篤な有名病を患っていることにまったく気づいていない。そのひとつの現れが田中優現象であり、広瀬隆現象であるといえるのではないか、ということの警鐘としての私の指摘のつもりでした。

誤解があってはいけませんので一言しておきますと、私は田中優さんも広瀬隆さんも全面的に否定するつもりはまったくありません。先のメールでご紹介した池田香代子さんもおっしゃっておられるように「古くから反原発運動をなさってきた方がた」は「尊敬するし、ともにやっていきたい」と私も思っています。しかし、「広範な意見をまとめていくにはひと工夫必要だなあ、というのが、現下のわたしの感想」でもあるのです。
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先のエントリでは反原発運動家・田中優氏に対する私の否定的な私見をご紹介させていただきましたが、同じく福島第1発事故が起きて以来にわかに(あらためてといった方が適切でしょうか)脚光を浴びている反原発作家、評論家の広瀬隆氏について、ドイツ文学者で世界平和アピール七人委員会のおひとりの池田香代子さんが次のような彼の負の側面の感想を述べられています。有名性や地位や名声だけで人を判断することの危険性についてのもうひとつのサジェスチョンとしてご紹介させていただこうと思います。

■【市民のML(CML)2011年3月25日付の池田香代子さんのメールより】
http://list.jca.apc.org/public/cml/2011-March/008398.html
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池田です。

わたしはDAYSJAPANに関わっており、広河さんの事務所にバックヤードのことを頼まれた行きがかりもあって、先日広瀬隆さんが出演なさったTV番組を紹介したりしました。
番組を観た上で、やや迷う内容もありましたが、それでもある1枚の写真を見ていただきたいと考え、ブログにも載せました。
巨大な原子炉の底の、複雑に配管がはりめぐらされた写真です。
広瀬さんのご主張についての判断はそれぞれに任そう、その上で、この番組を紹介したことの批判は甘んじてうけよう、と。

おととい、東京では広河隆一さんと広瀬隆さんの講演会がありました。
わたしは会場には行かず、あとからUSTREAMで観ました。

大船渡には明治時代、30m台の津波があり、今回のケースは「想定外」でもなんでもない、という話(Wikiを見たら載っていました)など、大きくうなずけることがたくさんありました。

しかし、首を傾げる話もありました。
とくに、「放射線を浴びたら、酵母菌を使った手作りの味噌が効く、広島で効果があったという話がある、酵素飲料も効くが種類による、詳しくは自分の娘がやっている自然食品の店に電話してほしい」というくだりにはびっくりしました。
スクリーンには、以上のことと、お店の名前と電話番号が出ていました。

こういう商品プロモーションがあると、わたしは正直、あれぇと思ってしまいます。
(わたしも講演の中で自著を紹介しますが、商品プロモーションとはちょっと違うと自分では思っています)

広瀬さんが長年、逆風の中、原発推進政策とたたかってきたことは、重い事実とうけとめています。
だけど、原発推進派が福島原発サイトでの「美談」に隠れて着々と政策存続に動いている今、なんとしてもエネルギー・デモクラシーを奪取しなければならない今、「トンデモ」な「弱点」を抱え込むことには危険を感じざるを得ません。

今、頭をもたげつつあるのは、ナオミ・クラインが「ショックドクトリン」で批判したフリードマンのやり方そのものです。ショックな出来事で人びとが呆然としているあいだに不人気な政策を断行する、というものです。
http://democracynow.jp/video/20070917-1?page=21

だから、今は気を緩めずに、広く共感をえられるような論理を構築する必要があると思います。
ネットには、反原発派への「醒めたまなざし」が散見されます。
「これじゃ嫌われるわな」とか、「勝利感に酔ってる」とか。
それを裏付けるように、おととい反原発ロビイングに参加した友だちは「引いてしまった」そうです。
自分たちの積年の思いをいまこそ声を大にして、という思いが先走って、主張するばかり、居丈高になったりもする、というのです。
いっぽうで、ツイッターを観察していると、いろいろな新しい芽が出てきていると感じます。
「(原発はもうダメだとつぶやいてきた)自分のフォロワーを見回したら、いろんな人がいる」とか。

広瀬さんにしても、古くから反原発運動をなさってきた方がたにしても、尊敬するし、ともにやっていきたいとは思うものの、広範な意見をまとめていくにはひと工夫必要だなあ、というのが、現下のわたしの感想です。
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久しぶりにエントリを更新します(なお、これまでの「みずき」(旧「草の根通信」の志を継いで)ブログをこちらに移転しました。旧来のブログは「みずき(資料庫)」としてそのまま継続活用していきます。これからもよろしくお願いします)。

さて、私も関わっているいわゆる市民運動の中には、一個の人間をそのかけがえのない一個の人間としてそのまま評価するのではなく、有名であること=人間の内実であるかのように倒錯しているある種の有名人病のようなものがあります。そして、その病弊は、私の見るところときとして政治革新を成し難くする大きな壁として私たちの前にしばしば立ちはだかることにもなります。下記記事はその危険性をいうために私の地元のメーリングリストに発信したものです。いわゆる革新勢力の人には有名だけが取り柄のタレント候補に一票を投じる「市民」なるものをあざ笑う傾向が強いように私には見受けられるのですが、その「革新勢力の人」が実はおのれこそが重篤な有名病を患っていることにまったく気づいていない。そのひとつの現れがたとえば田中優講演会殺到現象といえるのではないか、という指摘として。


○○さん ○○さん

おふたりの日頃からのご活動をもちろん否定するつもりはありませんし、5月初旬に計画されている田中優さんの講演会開催に反対するつもりもありませんが、おふたりの田中優氏の評価について若干の異論を述べておきます。いわゆる田中優ファンは反原発運動関係者の中には少なくないのですが、私はそうしたファン現象に危惧を感じているということもあって、一度彼を根底的に(この私の論はもちろん根底的なものではありませんが)批判しておく必要性を感じているということもあります。

まず私の若干の田中優氏観を述べてみます。

田中優氏とは私は4、5年前まで2年間ほどあるメーリングリストでご一緒していました。そこで田中氏及びきくちゆみさんといわゆる9.11陰謀論について若干の議論をしたことがあります。その議論における田中氏の見解は私から見て一面的で、かつ牽強付会なところも多く賛成しがたいものでした。このメーリングリストでは田中氏及びきくちゆみさんの見解の反対者は多く、田中さんは結局このメーリングリストをやめてしまいました。後にも触れるこちらのサイトで12番目のコメント投稿者が「僕も気になったので、一昨日の夕方に掲載サイトの問い合わせフォームから質問を入れてみたんですが、今も音沙汰ありません。これだけ東電や政府が都合が悪いことを隠している云々と主張されている一方で、自分たちがツッコミ入れられるのは嫌なんでしょうかね・・・・」という感想を述べられていますが、田中優氏はそうしたたぐいの議論をする人、議論の逃げ方をする人でした。

時を経て2年ほど前に大分市の田の浦で田中さんの講演を聞く機会がありました。私はパンフレットのたぐい以外の田中さんの著書を読んだことはないので、彼の考え方を知るよい機会だと思って彼の講演を聞いたわけですが、彼の論の特徴は、彼はたしかに各種の情報を自分の論理に合わせて見栄えよく構成する能力は高いとはいえるのですが、「自分の論理に合わせて」というところがカンどころで、情報とは本来多角的なものであるはずなのですが、自分の論に都合のよいその情報のある局面のみを切り取った体の牽強付会なところが多いように私には見受けられました。彼の話す論の展開を聞いていて私はおやっと首を傾げざるをえないところがしばしばありました。

さて、東日本大震災とともに現在進行形で未曾有の大惨事となった今回の福島第1原発事故が起きて以来、主に市民運動のサイドでこれまで反原発運動の理論的リーダー役を担ってきた幾人かの研究者や反原発運動家、またその発言がにわかに脚光を浴びるという現象、あるいは様相が見受けられますが(もちろん、その現象は必ずしも悪いことではありませんが、私は相変わらず(反原発)有名人志向の市民運動の幼弱性を感じてあまりよいこととも思いません)、その脚光を浴びている反原発運動家のひとりに田中優氏がいます。そして、その田中優氏の発言としていま注目されているのが下記の発言です。

■田中優×小林武史 緊急会議「今だからこそできる話がある」(2011年3月18日)
(1)http://www.eco-reso.jp/feature/cat1593/20110318_4983.php
(2)http://www.eco-reso.jp/feature/cat1593/20110319_4986.php

しかし、この対談の中で田中氏は「東京電力が東京大学に委託して、犬吠埼に風力発電を建てたらどれだけ発電するかを調べたそうです。そうしたら出てきたデータが『東京電力がまかなっている電気が全部作れます』というものだった。犬吠埼の沖合だけで、だよ」と語っていますが、この発言について、少なくない人たちが「机上の空論」「誇張や煽りが多い」「『犬吠埼に風力発電を建てたら東電がまかなっている電気が全部作れる』なんて大嘘もいいところ」などと批判をしています。ウィキペディアの 『田中優』の項の執筆者氏は上記の批判の紹介の後に「(田中氏が上記の対談で引用しているデータの)論文内容と田中の主張との間には齟齬もあるとの指摘もあり、同記事の信憑性については他部分も含め、要検証と思われる」とも補足しています。こうした田中氏批判は先にも述べた「牽強付会な論が多い」という私の田中氏評価とも一致しています。

上記の田中氏批判の論の中には次のような田中氏批判もありました。

「直接議論に関係ない話ではありますが、田中優という人。9.11の陰謀論主張するトンデモ映画にこういう寄稿しちゃう方だったりするみたいですし。元々、些か危うい人なんじゃないかと・・・・・。//『陰謀論という名の陰謀

冒頭でも述べましたが、この9.11陰謀論については私は田中優氏といささかの議論をし、彼を批判したことがあります。この9.11陰謀論については2008年10月12日付で地元のメーリングリストに発信した[「いわゆる『911テロ=米政府謀略説』について~Re: ノーベル平和賞とインド洋給油法案」]という記事で私の考え方を述べています。ご参考にしてください(下記関連記事参照)。

なお、ここでいうノーベル平和賞とは9・11真相究明運動家のひとりのデヴィッド・レイ・グリフィン博士が2008年度のノーベル平和賞にノミネートされたという情報を指しており、かつて田中優氏を含め、その友人のきくちゆみ氏やお連れ合いの森田玄氏などが大々的に喧伝した情報ですが、この情報の信憑性についてはコチラのような批判]もありました。参考のため掲げておきます。

関連記事:
再説 いわゆる『911テロ=米政府謀略説』について~Re: ノーベル平和賞とインド洋給油法案
 
○○さん ○○さん みなさん

いわゆる『911テロ=自作自演説』(9/11事件は米政府の謀略)は、この2、3年の間は東京を中心に全国レベルのML(AML)などでその当否について議論されてきた問題でした。

しかし、この問題が2、3年のタイムラグを経て、かつ『911テロ=自作自演説』オンリーの情報をともなって、いまこの九州の地にも上陸してきている模様です。

しかし、その「自作自演説」は、たとえば彼らの言うようにボーイング旅客機が仮にどこかに「消えた」として、では、その「消えた」ボーイング旅客機4機に搭乗していた乗客・乗員はどこへ消えたのか、という問題。事件が起きてすでに7年近く経過しているのに一人も名乗り出るものがいないのはおかしいのではないか、という問題。また、彼らの言うように、WTC1号棟と2号棟、7号棟に爆弾が仕掛けられ、建物が崩壊したとして、白昼数百人以上もの人が出入りしている同1、2、7号棟にどうやって爆弾を仕掛けたのか、という問題。そのような途方もない謀略をブッシュ政権はいつ実行したのか、という問題等々について合理的・科学的な説明をなしえていないように私は思います。

いわゆる『911テロ=自作自演説』(9/11事件は米政府の謀略)をもちろん自分なりにということでよいのですが、その自分なりの科学的な検討を抜きにして無批判に受容することの危険性(平和勢力内に非科学的な精神がはびこること)について、私は思いを巡らさざるをえません。

しかし、私は、米政府の『911テロ=自作自演説』の可能性をまったく否定するものではありません。この問題については、米政府の自作自演説の可能性を視野に入れながらも、あくまでも合理的、科学的に議論し、探求する必要がある、というのが私が立とうとしている立場です。

この問題の主張の当否については以下を参照していただきたいと思います。(1)がいわゆる『911テロ=自作自演』を主張するサイト、(2)がその『9.11テロ=自作自演説』を批判するサイトです。

(1)いわゆる『911テロ=自作自演説』(9/11事件は米政府の謀略)のサイト
・『911 ボーイングを捜せ』(グローバルピースキャンペーン)ブログ
http://www.wa3w.com/911/index--.html
※現在のブログは写真中心で構成されており、この件に関する詳細説明が削除されていますので、文章による説明部分を下記でご参照ください。
・関連サイト『<9.11テロの謎>消えたボーイング旅客機』ブログ
http://helicopt.hp.infoseek.co.jp/pentagon04.html

(2)『9.11テロ=自作自演説』を批判するサイト
・『ボーイングの行方』(総論「Part 1」)(制作者(msq))ブログ
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/index.html
・要点解説 『ボーイングを捜せ』(ビデオの詳細批判)
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911ips/ips_index.html

上記はいずれも長いので、最近、週刊『金曜日』(第718号~)に掲載された童子丸開氏のエッセイ「『9.11』の真実解明に向けて」を批判する上記(2)の「分解『ボーイングを捜せ』」 の制作者(msq)の以下の各記事から読んでみる、というのも一考かとも思います。

■(タイトル) 童子丸開氏のエッセイについて
(1)NISTは明確に説明している
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911/kyb718b.html
(1 続編) 外壁パネルと床トラスは別の場所
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911/kyb718b2.html
(2) ツインタワーはまっすぐに崩壊した
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911/kyb719.html
(3) 墓穴を掘った「豆腐のタワー」
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911/kyb720.html

以下、911から5年を契機に東京新聞が取材した「米で陰謀説再燃」の特報記事をペーストしておきます。同新聞の取材によれば、米国におけるいまの「陰謀説」の主流は、米政府の「自作自演説」とは違って、「ブッシュ政権が意図的に攻撃を見逃し、戦争政策に利用した」というもののようです。この見方は私の見方に近いです。

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■『9・11』から5年 米で陰謀説再燃(東京新聞 特報欄2006年9月6日付)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060906/mng_____tokuho__000.shtml

 きな臭い時代の幕開けとなった「9・11」事件から間もなく五年。米国では同事件の陰謀説が再燃している。ブッシュ政権が意図的に攻撃を見逃し、戦争政策に利用したという見方だ。従来、陰謀論を無視してきた政府も、今回は打ち消しに動いた。論戦は続くが、この再燃現象は同国の右傾化に対する揺り戻しにも映る。ただ、多くの市民はいまも真相よりも悲しみに縛られている。(田原牧)

 陰謀説再燃を印象づけたのは、六月初旬に米シカゴで五百人が参加した「9・11の真実を求める科学者たち(S911T)」主催の真相究明会議だった。このグループは退役空軍将校や元海兵隊情報部員などの大学人、ジャーナリストら七十五人で構成されている。

 米政府の独立調査委員会は二〇〇四年七月、事件の最終報告を発表した。しかし、S911Tはこの内容に異議を申し立てた。世論も敏感に反応し、オハイオ大・スクリプスセンターの最新世論調査でも、三分の一が「事件は政府が共謀したか、テロ計画を意図的に見逃した」とみている。

 政府は先月三十日、国立標準・技術研究所(NIST)の名で反論を発表。陰謀説に冷たかった大手紙もニューヨーク・タイムズが二日、政府の「反論」を機に陰謀説を取り上げた。
 
■『WTC倒壊爆薬が原因』 

 では、S911Tが指摘する陰謀説の根拠とは何か。乗っ取られた旅客機二機がニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)に突入したシーンは事件の象徴となっているが、彼らはWTC二棟の倒壊の原因に疑問を投げかける。

 政府報告書では衝突の衝撃とジェット燃料の熱で高層ビルの鉄骨が崩れた、としている。だが、S911Tはジェット燃料の火の温度は鉄の融点に達せず、衝撃にも十分耐えうる設計がなされていたという設計者の証言から、倒壊は航空機の衝突のせいではなく、爆薬が事前に仕掛けられていたと仮説を立てている。

■『建物の解体すぐに遂行』

 同グループはある退役軍人の「現場の状況は軍用テルミット(アルミ粉末と酸化鉄の混合物)爆弾で、ビルを倒壊する場面に酷似している。これは瞬時に高熱を発生し、鉄骨を溶解させる」という言葉を引用。

 さらに当日、衝突とは無縁だった四十七階建てのWTC第七棟が崩壊した事実に注目する。第七棟では突入事件直後に火災が発生したが、ビルの借地人が消防当局に消火を断念し、倒壊を命じたと証言している。

 だがS911Tは、火災が小規模なのに消火せず、爆薬による解体がわずか数時間の間に遂行されたのは「事前準備抜きにはあり得ない」と結論。ここから逆に航空機が衝突した二棟にも、事前に爆薬が仕掛けられたと推測している。

 WTC以外に国防総省にも当日、乗っ取られた航空機が突入したとされる。これについても、S911Tは疑問を呈している。

 理由として(1)建物にできた衝突の穴が機体に比べて小さすぎる(2)突入直後の写真に建物内部の家具や電子機器が散らばっているにもかかわらず、六十トンもの機体の残骸(ざんがい)や乗客の荷物などが見えない(3)飛行技術に未熟な犯人が、改築中で唯一無人だった高さ二十二メートルの西棟に急旋回し、かつ超低空飛行を維持して突入するのは不可能-といった点を列挙。ミサイルによる破壊の可能性を示唆する。

 ほかにも、同グループは事件に絡む「不自然」な点を並べる。例えば、国防総省が前年十月、旅客機が同省に突っ込む想定で対テロ訓練をしていたにもかかわらず、ライス大統領補佐官(現国務長官)が事件直後に「誰一人として(こんな事件を)夢にも思わなかった」と発言したこと。

 一機目がWTCに衝突してから約五十分後に、空軍などが守る首都中枢の国防総省に乗っ取り機が突入できた不思議。ちなみに当日は複数の防空演習があり、レーダー上も仮定と現実の区別がつかなかった、という説明がされている。

 さらに事件の調査費が六十万ドルで、クリントン前大統領のスキャンダル調査費の七十分の一にすぎず、政府が真相究明に消極的だった点も指摘されている。

 一方、政府もこうした追及に対抗している。WTC爆破説については「もし爆薬で解体するなら下の階から爆発させるのに、今回の仮説では逆になっている。さらに数千もの爆薬や起爆装置を混雑するオフィスビルで秘密裏に設置するのは事実上、不可能」と反論している。

 何より、〇四年にウサマ・ビンラディン容疑者自らが声明で犯行を認めていることを、陰謀説を打ち消す最大の根拠にしている。

 ただ、S911T側は政府中枢がアルカイダの犯行計画を知っていて、それを意図的に看過、利用したとしており「その後のアフガニスタン、イラク侵攻を遂行するために“第二の真珠湾攻撃”が必要だった」と“陰謀”の政治的動機を説いている。

 こうした陰謀説は事件直後から米国内外で流れていた。ただ、昨今の再燃は、イラクの泥沼状況に伴う反戦感情の高まりが背景にあることは間違いない。

 米国での陰謀説は今回に限った話ではない。一九六三年のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件をめぐっても軍産複合体犯行説など陰謀論が根強く、真相はいまも閉ざされている。

 9・11の中心地、ニューヨーク(NY)の市民はいま事件をいかに受けとめ、陰謀説の高まりをどう感じているのだろうか。現地在住のジャーナリスト北丸雄二氏に報告してもらった。

 NY市民はなにげなく振る舞うのがうまい。五回目の9・11も大げさなのは嫌いだ。けれど心はいまも傷ついている。

 ことし「ユナイテッド93」とオリバー・ストーン監督の「ワールド・トレード・センター」という二本の9・11映画が封切られた。

 写真家トロイ・フィリップス(41)は「ぼくの友人でこの映画を見たやつはいない」と言う。

「まだ準備ができていないんだ。もっとも、NY以外の人はどうか見てほしい。ただ、ぼくらは普通に地下鉄に乗り、普通に買い物をし飛行機に乗り、トンネルや橋を怖がることなく渡れるような生活に専念したいんだ」

 そんな状況で「陰謀説」を顧みる余裕は市民にはあまりない。これも「NY以外の人」に任せたい。陰謀好きのストーン監督の新作ですら事件の前にひれ伏したような直球だ。NYの映画館では物語が始まる前から早くも緊張ですすり泣く声が聞こえたりする。

■『複雑な余波陰謀説不要』

 一時帰米中の明治学院大学ロバート・スワード教授(64)は五年前、崩落する世界貿易センターを自宅アパートの屋上から見ていた。「その後の五年は、相も変わらぬ人命の損失と破壊と、ブッシュ政権とその同盟国による国際的な愚行と希望喪失の連続だった。9・11の余波がこんなにも複雑なのに、これ以上、誰に陰謀説が必要だろうか」

 会計事務所社長でユダヤ人のジェリー・クリング(58)は悲観的だ。「9・11は人びとの宗教観を永遠に変えてしまった。宗教は戦争を想起させるものになった。不信心者ゆえに殺される時代。私たちが私たちを憎む数千もの狂信的自爆テロから自らを守ることはもはや不可能だ。私たちは次の悲劇の日までを生き延びているにすぎない」

 NY市民にとってあのトラウマ(心的外傷)の完治はないかもしれない。なにげなく振る舞っているとしても、それは彼ら一流の演技なのだ。

 <デスクメモ> 陰謀説は、どの時代にもある。古くは旧ソ連のガガーリン少佐の偽者説を聞いたし、日航機御巣鷹山墜落事故の「真相」を語る人の話も聞いた。「9・11異説」がこれらと違うのは、あまりに多くの米国人に支持されていることだ。真実はともあれ、国民に育ったさい疑心を米政府は重く受け止めなければ。 (充)
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